風がふわり、頬を撫でる。

それと同時に桜の花弁が、徒競走を始め、あっという間に俺を通り越す。

ああ―――この場所だ。

この場所で、初めて彼女を見て、恋をして。

勇気何て持ち合わせてない俺は、何もできずにそのまま学生生活を過ごし、何もしないまま葉月に奪われ、何もしないまま、卒業していく。


「今日で卒業だな」


隣で平松が紙に優しく筆をおろす様に呟いた。


「……そうだな」

「後悔だらけの、1年だった」

「俺もさ」

平松は都内の有名私大への進学が決まった。葉月は県内の国公立大学。中野は専門学校。俺はチームが活動する県外へ。

それぞれが、それぞれの道に進みだそうとしている。

高校2年生のある日を境に、5人が集まることも無くなった。

戻れない時を悔やむのは、これで何回目だろうか。

何度あの頃に戻れたら、と願っただろう。

この世から犯罪が無くなるのと同じぐらいありえない事を、俺は何度も何度も願わずにはいられなかった。