互いの距離が縮まるにつれて、心臓の音が加速する。静かなここでは、その音が相手に聞こえてしまうんじゃないかと思うほど。 見ない見ない。 軽く下を向いて、髪の毛で顔を少し隠す。 だけど、見ないフリをして、視線を送ってしまう。 全神経を、日向君に集中させてしまう。 二人のスリッパの音だけが、微妙にずれながらそこに響く。 「・・・」 「・・・」 すれ違った瞬間、懐かしい香が鼻腔を擽った。 すれ違うだけなのにドキドキするなんて、馬鹿みたいだ。