「大地・・・」

小さく呟いた平松の声を俺は無視して、遠ざかっていく背中を追おうとした時。





「待って下さい、大地先輩!」


まるで、先程のシュートを打つときのような高い声が、俺を呼び止めた。

あの声は、琴美のものだったのか。

試合に集中していて、深く考えはしていなかったが。



「何」

「あの、監督が・・・呼んでます」



赤堀に呼ばれたことくらい、遅れることどうってことないが、監督となるとそうはいかない。


もう一度彼女が走っていった方向を振り向くと、もうそこに小さな背中はなくなっていた。



「・・・分かった」



ため息とともに吐き出した言葉。

その返事に安心したかのように、琴美は小さく微笑んだ。