「あ……!」


莉奈がどうしたの、という顔で私を見る。

私は人差し指を立てて上、上、と莉奈に合図を送った。



「この流れてる歌、最近出た曲で大好きなんだ」


スピーカーから降ってくるメロディーに莉奈も暫く耳を傾けていた。


賑やかなクラスメイトの声に混じって放送から聞こえてくる音楽に、私も耳を澄ます。



「美空、この歌手好きだもんね」



莉奈の言葉に頷くと。



「莉奈ー」


窓からひょこっと顔を覗かせる一人の人物。


彼もまた、学年で知らない人はいないほどの有名人であり、莉奈の彼氏でもある平松(ヒラマツ)翔也君だ。



「数Ⅱの教科書貸して!」

「またぁ? いい加減持って来てよね」



そう呆れながら言うと莉奈は席を立ち上がり、ロッカーに教科書を取りに向かった。



そんな様子を頬杖をつきながら、ぼんやりと眺めていた。