「お前ら、結婚してもいいんじゃないか?」


ふたりが目を見開いて顔を見合わせたあとで、困惑気味な表情で口を閉ざした。


「美乃にとって……たぶん、ふたりは憧れなんだよ。だからあいつ、あんなこと言ったんだろ」

「……さっきも言ったでしょ? 私はまだ自信がないの」


広瀬は、さっきと同じ言葉できっぱりと否定した。


「まぁ、お前らの問題だし、俺が口出しすることじゃないけど……。ただ……俺は、お前らの結婚式を早く見たいって思ったんだ。美乃もたぶん……」


そこまで話して、小さな笑みを浮かべた。
信二と広瀬ならこれ以上は言わなくても伝わるってことを、わかっていたから。


「俺は明日早いし、そろそろ帰るよ! 送ろうか?」


車の鍵を見せると、ふたりとも首を横に振った。


「悪かったな……。じゃあな」


信二と広瀬を残して店を出て、車に乗った。
静かな車内をやけに広く感じながら車を走らせ、コンビニに寄ってから帰宅した。


その夜、俺は湯舟に浸かりながらある決意をし、すぐにそれを実行した。
脱衣所で髪を拭きながら、洗面台の鏡に映る自分を見る。


また、あいつらにバカにされるな……。


そこに映る自分は久しぶりに見る姿で、懐かしいような照れ臭いような気分になった。
心の中で零した独り言とは裏腹に、満足していた。


上半身は裸のまま冷蔵庫から水を取り出し、それを一気に飲み干した。
渇き切った体が、ゆっくりと潤っていく。
そのままベッドに潜り込み、すぐに眠りに就いた。


この日は、美乃と過ごす未来の夢を見た。
十年後も変わらず、俺の隣で優しく笑う彼女。


美乃の病気は完治し、俺たちは結婚して子どももいた。
男の子か女の子かはわからなかったけれど、彼女に似て本当に可愛いかった。


夢の中の美乃は、まるで今日の写真のように、俺にずっと微笑みかけていた――。