伊織と会えなくなって体調はどんどん悪くなっていったけど、私は心のどこかでホッとしてた。
この時は、毎日死と隣り合わせで生きることに本気で疲れてたから……。
正直に言うと、『早く死にたい』とまで思ってた。


だけど……そんな私の気持ちを、伊織は掻き消してくれた。
伊織が、私のことを好きって言ってくれたから。

あの時は本当に嬉しくて、伊織に抱き着きたかった。
でも、私は『もうすぐ死ぬのに恋なんてしない』って、頑なに首を横に振ってたよね。
弱くてごめんね。
きっと、伊織のことをいっぱい傷付けちゃったね……。


だけど、それでもめげずに私に会いに来てくれる伊織への気持ちを、少しずつ誤魔化せなくなっていった。
何日も悩んだけど、どうすればいいのかわからなくて、結局私は意思を曲げなかった。

身勝手な私は、伊織の優しさに甘えて、できるだけラクな道を選ぼうとしてたの。


それなのに、伊織があの桜の木の下で私の誕生日を祝ってくれた時、もうこの気持ちは隠せないと思った。
伊織になら、弱い私も見てほしいと思えたの。


伊織と付き合ってから、私の人生は変わっていった。

『生きたい』と強く思うようになって、伊織のことをどんどん好きになっていった。
自分でも加速していく想いを止められなくて、時々すごく恐くなったりもしたけど、それ以上に幸せだったよ。

伊織と一緒にいられるのなら、どこに行ってもなにをしても楽しかった。
それがたとえ病室でも、私は嬉しかったの。


伊織の家に泊まった時、ずっと落ち着かなくて緊張でいっぱいだった。

それでも、伊織のことが愛おしくて堪らなくて、伊織に抱かれたあの夜、私は『このまま死んでもいい』と本気で思ったの。
『伊織に抱かれながら死ねたら恐くない』って思えたから……。


私は、あの時が一番幸せだったのかもしれない。