「結構一気に落ち着くんだね」藤原君は閉店が近くなった頃、他の客がいなくなった店でぽつりと言った。

「そろそろ閉店だしね」

「ああ、そうなんだ。なんか、ここって落ち着くよね。もう何時間かいるはずなんだけど、まだいられるほど居心地いい」

藤原君の声に、義雄と雅美は「そう言ってくれると嬉しいよ」と穏やかな声を揃えた。

「一人でも多くの人にとってそういう場所であれるようにと常に考えてるんだ」義雄が言った。

「へええ」

「まあ、実際はどれほどの人にそう思ってもらえてるかわからないけどね」

「そういえば、なんで料理屋なの? 他にもいろんな商売はあるわけじゃん」

「それは……トシさん達しか知らないな」僕が言った。

「トシ?」

「僕の曾祖母」

「わたしのおばあちゃんでね」雅美が言った。「その人が、旦那であるわたしのおじいちゃんとここを開業したの」

「へえ」

トシおばあちゃま達が始めたんですか、と薫子は義雄から受け取った食器を拭きながら言った。食器を拭くのは僕がやると言ったが、薫子は少しくらいためにならせて下さいと笑った。

「てっきり、雅美さん達が始めたのだと思ってました」