「なんか、この時間も忙しいんだね」藤原くんは静かに言った。

「今日はちょっとね」

「大丈夫、おれ邪魔になってない?」

「大丈夫だよ、席なくなるほどでは全然ないし」

「まあそうだけど……」なんかごめんと呟く彼へ、「気にしないで」と返す。

「なにか食べる?」

「じゃあ、水羊羹」

「了解」と返すと、厨房に入る前に義雄が藤原君の前に黒い皿を置いた。

「すごい、金箔載ってる」

お洒落でしょうと笑い返すと、「そぼろ丼」と義雄からお盆が差し出された。「はいはい」とそれを受け取る。

座敷に上がってすぐ、「またご利用下さいませ」と雅美の声がした。

「失礼致します。お待たせ致しました、鶏そぼろ丼のご飯少なめでございます」

「ありがとうございます」

「ご注文の品は以上でよろしいでしょうか」

「ええ」

「なにか必要なものがございましたらお申し付け下さいませ。ごゆっくりどうぞ」失礼致しますと頭を下げ、空いた席に残った食器を持って座敷を下りた。