二度目の休憩を上がってから初めて接客したのは藤原君だった。水の入ったグラスを置くときに「またなにかあった?」と問うたが、彼は「今日はただ遊びにきただけ」と笑顔を見せた。

「植島の教育でもしてやろうと思ったんだけど、植島今日いないの?」

「いるよ」

言ったあと、座敷で薫子の声が上がった。

「ただいま布巾を持って参ります」という声のあと、薫子は静かに座敷から下りてきた。厨房へ向かう途中、藤原君に気づいた彼女は笑顔を見せた。

藤原君は小さく苦笑した。「なんか……かわいいと思っちゃった」

「当たり前だ、僕のスイートハートなんだから」

藤原君が小さく声を発してすぐ、「お願いします」と声が聞こえ、「ただいま伺います」と僕は返した。

「えっ、嘘でしょ?」

「当然」

座敷へ向かうと、後ろから「えっ本当? 本気で言ってるの?」と混乱したような声が聞こえた。