朝食を済ませたあと、僕は薫子と共に店に入った。薫子は右耳の上辺りに藤色と桜色の紐で梅結びが為された髪飾りを着けていた。「トシおばあちゃまがよかったらと下さったんです。手作りだそうですよと」嬉しそうに笑顔を見せた。

店では、穏やかな音楽の中、義雄と雅美が仕込みをしていた。

「おはようございます」と言う薫子と「おはよう」と声が重なった。「おはよう」と二人からも同じように返ってきた。

「そうだ、義雄」僕が言った。

「どうした」私語厳禁だぞと言う彼へいつからだよと笑い返す。

「あとでちょっと話があるんだ」

「ふうん。おれも少し話したいことがあったんだ」

「そうか。じゃあまあ、閉店後にでも」

おうよと頷く義雄へよろしくと返した。

僕は掃除用具を手に、薫子と共に座敷へ上がった。下に残った下駄の黄色の鼻緒には、それぞれ百合と福寿草の小さな造花が飾られている。百合が薫子、福寿草が僕の下駄を飾っている。

百合と福寿草はそれぞれ夏と冬の花で、春の木蓮は義雄、秋の金木犀の造花は雅美の下駄の鼻緒を飾っている。僕達四人の誕生日が四つの季節に別れていたのは偶然だ。