「ねえ恭太君、おにぎりってよくないですか?」戸の閉められた部屋に、薫子の明るい声が響いた。

「まあ美味しいよね」僕は布団を畳みながら答えた。「でも薫子、おかずのあるご飯の方が好きなんでしょう?」

「ああ、わたしではなくて」

「ん?」布団を隅へ置いたあと、僕は「あっ」と声を上げた。振り返ると、薫子はベッドの上でこちらを向いて正座していた。

「新メニューか」

「そうです、新メニューです」

「おにぎりか」

「おにぎりです。いかがですか? 素朴な料理ゆえに腕の良し悪しが出ますが、それは他の料理にもありますし、数は簡単に稼げそうじゃないですか? おにぎりに合わないものって殆どないじゃないですか」

「そうだね。なるほど、おにぎりか……」

「定番の梅やおかか、わかめから、なにか変わり種も考えてみると面白いかもしれません。例えば……」そうですね、と薫子は呟いた。「薄焼き玉子ソーセージとか、ししゃもとか」

「薄焼き玉子ソーセージ?」

「はい。薄く、クレープの生地のように焼いた玉子でソーセージを巻いたのが具になるんです。ちょっと握りづらそうですが……」

「ああ、でも美味しいかも」

「ししゃもおにぎりはそのままししゃもを具にするんですが、尻尾をおにぎりの上から出すのがポイントです」

「ほう」

「ユーモア、みたいな」

「かわいくていいかも」

ああそうだと声を発したと同時に、「朝食できたぞ」と義雄の声がした。