「義雄さん、なんと?」薫子はベッドから脚を下ろした。

「なんかあるらしいよ。先に言ってしまってはもったいないようなこと」

「へええ」薫子は顎に手を当てた。「なんだか惹かれるものがありますねえ」

ないない、と僕は手をひらひらと動かした。「相手は義雄だよ? どうせくだらないものだよ」

「そうですかね」

そうだよと笑い返すと、ゆっくりと三度戸が叩かれた。

「はい」と答えると、静かに戸が開けられた。義雄だった。

「さてお二人。朝食を決め給え」

「わたしは……」どうしようかなと呟く薫子へ、義雄は「なんでもいいよ」と優しく返す。

「じゃあ僕おにぎり」

「具は?」

「ふりかけと塩」

「はいはい」

「おにぎり……おにぎりいいですね」

「薫もそうするか?」

「えっ、ああ、はい。お願いします。塩で」

「了解よっと」今しばしお待ちよと残し、義雄は台所へ向かった。閉めてけよと苦笑すると、さっと伸びてきた腕がぴしゃりと戸を閉めた。