翌朝部屋を出ると、台所にいた義雄が「聞こえたか?」と笑った。

「なんか言ったの?」

「早く起きねえかなあって」

そうなんだ、と僕は笑った。

「薫は?」

「起きてるよ」

僕は洗面台の水栓をひねった。眼帯を外し、洗口液のそばに置く。顔を洗い、眼帯を着け直して洗口液で口をゆすいだ。

「なにかあるの?」僕は言った。

なにが、と義雄は野菜を炒めながら言った。

「僕達に早く起きて欲しかったんでしょう?」

「ああ」まあな、と義雄は口角を上げた。

「なに?」

「それはさあ、もったいないじゃん。先に言うと」

「そう」

じゃあ教えてくれるまで楽しみに待ってるよと言いながら自室の戸を開けると、義雄は「一ミリも楽しみじゃねえだろ」と笑った。

「ばれた?」と返すと、部屋で薫子が笑った。