薫子が横になったあと、僕は天井から垂れる紐を引いて照明を常夜燈にした。
「本当に、明るいままで大丈夫ですよ?」
「大丈夫」一人じゃないからと続けると、薫子はぐふふと笑った。
「なんか、ものすんごいかわいいこと言いますね。歳下だったらもうぎゅうってしちゃいます」
「随分歳上だったね」と苦笑すると、「理想よりはちょっとばかりお兄さんでした」と同じように返ってきた。「でもいくらでも一緒にいちゃいます、そんなかわいいこと言われたら。わたしも一人は嫌ですし」
沈黙の中、何度か時計の針が動く音がした。
「ほっこり亭、ほっこり堂、……ほっこり処――」
ぽつぽつと並べると、薫子は「気に入って頂けましたか?」と穏やかに言った。
「かなりいいと思う。食事処ってちょっと字面硬いから」
「ほっこりって、音も文字もかわいいですよね。こうのはならしいとも思います」
「亭と堂と処って意味違うのかな」
「少しずつ違ったはずです。亭が、旅館とか料理屋さんとか、人が集まる建物の名前につけるもので、堂は多くの人を入れる建物、処は、物とか事があるとかの、空間……みたいな。そんな感じだったはずです」
「へえ。詳しいんだね」
「国語は、学問の中では比較的好きだったので」
「そうなんだ」
「ちなみに恭太君は学生時代好きな教科ってなんでした?」
「美術……かな」
「へえ。絵、うまいんですか?」
全然、と僕は苦笑した。「ただ担当の教師が穏やかな人だっただけ。僕の通ってた学校、短気な人多かったから」
「多くはありませんでしたがちょっとわかります。なんか常に怒ってるような人いましたよね。小四の担任がそうで、好いている生徒はいませんでした」まあ当然ですよねと薫子は笑った。
「本当に、明るいままで大丈夫ですよ?」
「大丈夫」一人じゃないからと続けると、薫子はぐふふと笑った。
「なんか、ものすんごいかわいいこと言いますね。歳下だったらもうぎゅうってしちゃいます」
「随分歳上だったね」と苦笑すると、「理想よりはちょっとばかりお兄さんでした」と同じように返ってきた。「でもいくらでも一緒にいちゃいます、そんなかわいいこと言われたら。わたしも一人は嫌ですし」
沈黙の中、何度か時計の針が動く音がした。
「ほっこり亭、ほっこり堂、……ほっこり処――」
ぽつぽつと並べると、薫子は「気に入って頂けましたか?」と穏やかに言った。
「かなりいいと思う。食事処ってちょっと字面硬いから」
「ほっこりって、音も文字もかわいいですよね。こうのはならしいとも思います」
「亭と堂と処って意味違うのかな」
「少しずつ違ったはずです。亭が、旅館とか料理屋さんとか、人が集まる建物の名前につけるもので、堂は多くの人を入れる建物、処は、物とか事があるとかの、空間……みたいな。そんな感じだったはずです」
「へえ。詳しいんだね」
「国語は、学問の中では比較的好きだったので」
「そうなんだ」
「ちなみに恭太君は学生時代好きな教科ってなんでした?」
「美術……かな」
「へえ。絵、うまいんですか?」
全然、と僕は苦笑した。「ただ担当の教師が穏やかな人だっただけ。僕の通ってた学校、短気な人多かったから」
「多くはありませんでしたがちょっとわかります。なんか常に怒ってるような人いましたよね。小四の担任がそうで、好いている生徒はいませんでした」まあ当然ですよねと薫子は笑った。