薫子は濡れた髪の毛を拭きながら居間へ戻ってきた。「いやあ、冬でもないのにお風呂で寝そうになりました」

僕の隣に座ると、彼女は「あっ」と声を上げた。

「そういえば、こうのはなってホームページとかないんですよね」

「そうだね」僕が言った。

「お風呂でふと思ったんですが、昨日みたいに臨時休業する場合もありますし、やっぱり必要じゃないですかね?」

「ああ……」義雄は腕を組んだ。「でもめったに休まないからなあ」

「で、確かに営業情報のためだけのページになると見る人いなくなりそうなんですよね。そこで、わたしちょっと考えたんです。こうのはなって、新しい料理とかできてますか?」

「新しい料理……」義雄と声を重ねて苦笑した。

「最後にできたのは……」

「恭太が十五歳くらいの頃だな」義雄は苦笑した。「なにが増えたのかも覚えてないよ」

「もう五年以上変わってないってことですか?」

「まあ、そうだね」

そうですか、と薫子は呟いた。「それじゃあもう、こうのはならしさみたいな、このメニューこそこうのはな――みたいなところありますね」

「いや、それは……」

「どうだろう」と義雄が続いた。「どこにでもあるような料理ばかりだし」

「では、皆さんは料理を増やしたいと思ってるんですか?」

「思いつけば面白そうだね」僕が言った。

「じゃあ、わたしの妄想を爆発させて頂きますね」薫子は嬉しそうに言った。