「気、合わなくはないのかもね」藤原君は静かに言った。「最初はうえしまさんのこと、竹倉君と話したいのにそばにいる邪魔な奴だと思ったけど」

「そこまで思われてたんですか」薫子は苦笑した。

「でも今はちょっと違う」ねえうえしまさん、と藤原君は顔を上げた。「その、よかったらでいいんだけど……友達になってくれない?」

僕は薫子を見た。彼女は不思議そうな表情で藤原君を見ていた。面白いこと言いますね、と小さく噴き出す。

「友達って、こんなふうに得るものなんですかね?」

「いや、わかんない。こんなこと言ったのは初めてだけど……」

「わたしもこんなことを言われたのは初めてです。友達って、何気なくできていくものだと思ってました」

「そう……なのかな。いや、そうなんだろうね」

「わからないですけど……」

ぎこちなく交わされる言葉に、僕は頬が緩むのを感じた。藤原君が自然に笑っている場面を見たのは初めてに近いことだった。

「ねえ、うえしまかおるこってどんな字書くの? てかいくつ?」

「植物の植に島国の島、草冠の薫に子供の子で植島薫子、八月生まれの十七歳です」

「へえ……てか十七? 一歳しか変わらないの?」

「そんなに幼く見えますか、わたし?」確かに童顔だと言われたことはありますがと苦笑しながら、薫子は頬をさすった。

「ところでふじわらさんは、普通に藤の原でいいんですか?」

「うん。てかそれ以外にあるのかな」

「わからないじゃないですか、ものすごい数の名字があるんですよ?」

まあそうだけどと藤原君は苦笑した。「ていうか、おれ歳下だしそんな丁寧な言葉じゃなくていいよ」

「ああ、はい……」えっ、と薫子は声を発した。「歳下なんですか?」

「歳上に見えたのかよ」

「なんかわたしと違ってすごい落ち着いてるというか大人びてるというかで……」この歳にもなると歳下が増えてきて困ります、と薫子は肩を落とした。

十七歳が五歳も若い年齢になってしまった僕はどうするのだと僕は腹の中で苦笑した。

ていうか藤原君には老けて見られてたんですね、と薫子は複雑な声色で呟いた。