店と家に二つずつ購入したトイレットペーパーをそれぞれの場所に、さきいかを居間の座卓へ置いて自室へ入った。居間には誰もいなかった。

壁掛け時計は十時半過ぎを示していた。僕はそのままにしていた布団を畳み、小壁に掛けてある作務衣を取った。縮緬の、藤色の上衣と下衣に、茶色の前掛けというものだ。上衣の胸元で重なる部分に控えめな花柄、前掛けの一部と衣嚢の上部に七宝繋ぎが為されている。


店では義雄と雅美がすでに準備を始めていた。「おかえり、ありがとうね」と言う雅美へ「ただいま」と返す。

こうのはなは十一時に開店する。閉店は十九時、定休日は土日と祝日だ。

僕は容器にぬるま湯を張り、中性洗剤を入れた。それで布巾を濡らし、かたく絞る。

雅美や義雄の立てる音を包む音楽を聞きながら机を拭いた。そのあとに乾拭きする。

席は計二十ある。カウンターと座敷がそれぞれ十ずつだ。初めて見たときには、こんな場所にある店でこれほどの席が埋まるものかと思ったが、昼時には満席に近い状態となる。ときには外の椅子に腰掛ける人もいるほどだ。

店全体の清掃をしていると、およそ三十分の時間はすぐに経った。

「そろそろ時間だな」義雄は今日も穏やかな一日となるようにといった旨を語ったあと、静かに言った。数秒後、十一時の目安のために流していた音楽が止んだ。

よし、と彼は手を叩く。

「食事処こうのはなが、今日もあたたかな場所でありますように」

よろしくお願いします、と頭を下げる義雄に、僕と雅美、少し前にきたトシさんが同じく続く。