「父さんが愛してる人を犯罪者にしないで――。何度か言えば、母の力は弱くなった。その間におれは家を出た。そしてここにきた」

薫子が鼻をすすり、うっと声を漏らした。「義雄さん、ティッシュとかありますか?」薫子はしゃくり上げながら言った。はいはい、と義雄はボックスティッシュを机に置いた。

「ありがとうございます」と薫子は何枚かティッシュを引き抜いた。

「なんでうえしまさんが泣いてるの」

「だめです、こういう話。この……ほら、家族愛って言うんですか? もう……」

「そんな綺麗なものじゃないよ」藤原君は小さく言った。

藤原君は体ごとこちらを向いた。

「ねえ、竹倉君。おれどうしたらいい? いつか、父さんのことも考えられなくなって母を受け入れちゃいそうなんだ」

「お母様のこと、これからも大切にしてあげてください」薫子がティッシュを引き抜きながら言った。「そしていつか、冷静になれたお母様に言ってあげてください。恨むことなんてできないと」薫子は言ったあと、鼻をかんだ。