母はおれの父親とのことについて語り始めた。

「あの人は、わたしがよく行く美容室のスタッフだった。若くて愛想のいいスタッフ。何度か担当してもらううちに、あの人へ特別な感情を抱いた。

彼、学生時代はやんちゃばかりしていたというの。一日に何人も殴っていたそうよ。それなのに、今では愛想のいい美容師になってる。それが、わたしには不思議なほど魅力的に映った。少しの間悪いことをしても、あとで取り返せるのだと思えたの。

わたしは後に、彼と客としてとは違う形で頻繁に会うようになった。まず食事、次に飲酒、その次からは飲食店以外の場所へ出掛けた。それを重ねた後、わたしは所謂――」

要は、母は二人の相手との子を同時に宿したとのことだった。体が震えた。胃がきりきりと痛んだ。あまりにおれより優れている姉は本当の姉ではないのではないか――一度は腹の中に思ったことだった。いや、その瞬間はそれを望んでもいたのかもしれない。

しかし、それやそれに近いことを実際に事実として知らされた場合のことは一切考えていなかった。そんなことはありえないとどこかで思い込んでいた。

なにせ姉とは双子なのだ。同じ年の同じ日に、ほぼ同時に生まれたのだ。そんな相手と片親が違うとは想像さえしなかった。

世の中なにが起こるかわからない、想像以上のことも起こり得るといつか触れた作品の登場人物は語っていたが、その通りだと思った。