男性客を見送ったあと、僕は薫子と共に障子を閉めた。

その後ぽつぽつと訪れる客を見送り、やがて店内から客の姿が消えた。

「もう終わりね」雅美は静かに言った。

看板を変えてくると言って雅美が台所を出たとき、がらりと出入り口が開けられた。「いらっしゃいませ」と雅美と義雄が声を揃える。

雅美がそちらへ向かい始めると、なにやら鈍い音がした。僕は咄嗟に駆け寄った。白いティーシャツに包まれた背が丸まって震えていた。

「……藤原君?」雅美が言った。

僕は彼の背をさすった。「藤原君、大丈夫? 苦しい?」

死ぬかもしれない、と藤原君は呟いた。震えた微かな声だった。

「えっ……救急車とか呼びますか?」薫子が言った。「違う」と藤原君は呟く。鼻をすすり、頬や目元を拭った。

薫子は「あっ」と声を発した。「看板、変えてきますね」と残し、家の玄関へ続く方へ走って行った。