十四時半、休憩を上がると「休憩入ります」と薫子が報告してきた。「お疲れ」と返した。

十七時半に二度目の休憩から上がる頃には店内に客の姿は疎らになり、営業中に流れている和楽器が奏でる音楽もはっきり聞こえるようになる。法的な手続きは雅美がしっかり済ませている。その曲については名前も奏者も知らないが、店が営業できているという安心を感じる。

「お先に八千円と――五百円のお返しでございます。ありがとうございます、またご利用下さいませ」

一人の女性客を見送ると、音楽が穏やかな沈黙を包んだ。客のいない店内に少しばかり緊張が解ける。

「さすがに、これくらいの時間にもなると落ち着いてくるんですね」薫子が言った。

「そうだね」

「昼間はすごいですよね。忙しいのに水撒いちゃうし……」

「大丈夫だよ」義雄と声が重なった。

「おれなんかあれだぞ、カツ丼と親子丼間違えて作ったことあったからな」

まじか、と声が出た。「幸い休憩前だったから昼食にしたけど」と続ける彼へ苦笑する。

「僕も少し前に食器割ったし。それに、薫子はちゃんと対応できてた」

「頭の中はパニックの塊でしたけど。ちゃんと対応できてたならよかったです」

「大丈夫。しばらくすればああいう対応にも慣れるよ」

だといいです、と薫子が笑った直後、出入り口が開いた。僕がそちらへ向かうと、薫子は厨房へ入った。

「カウンターとお座敷どちらになさいますか?」

カウンターで、と男性客は短く答えた。

「かしこまりました。お好きな席へどうぞ」

男性客は真ん中辺りの席に着いた。「お品書き失礼致します」と前に品書きを置く。「お冷でございます」と薫子が続いた。