「失礼致します。あじの塩焼き定食、キャベツ味噌汁でございます」

男性客は「どうも」と会釈した。

「ご注文の品は以上でよろしいでしょうか」

「はい」

「必要なものがございましたらお申し付け下さいませ」

ごゆっくりどうぞと頭を下げて立ち上がると、「失礼致しました、申し訳ございません」と聞き慣れた声が近くの席で慌てた。薫子が水をこぼしたらしい。机を拭きながらぺこぺこと頭を下げる彼女へ、女性客は慌ただしく両手を振る。

机以外が濡れた様子もなく、僕は「すみません」という声へ向かった。「ただいま新しいお冷をご用意致します」と薫子の声が聞こえる。

「茄子とピーマンの肉炒め定食……の、ご飯を枝豆ご飯にってできますか?」

受注の途中、薫子が慌てた様子でそばを通って座敷を下りて行った。

「はい、可能でございます」

「じゃあ、それで」

「茄子とピーマンの肉炒め定食、枝豆ご飯ですね。かしこまりました、少々お待ち下さいませ」

失礼致しますと頭を下げ、座敷を下りる。

厨房から水の入ったグラスを持って出てきた薫子へ「大丈夫だよ」と耳打ちした。