昼時になると、見慣れた着物がレジに立った。「またご利用下さいませ」と穏やかな声が客を見送る。伝票がなくても問題がないとはすごい九十代だなと思った。

席へ料理を置くと、「すみません」という声に「はい、ただいま伺います」と薫子の声が返した。

「彼女は新人さん?」常連の女性は言った。

「はい」

「色々と愛らしくて、すごく応援したくなる方ね」

「温かい目で見守って頂けたら幸いです」

「ええ、応援してるわ」

僕は会釈した。「ご注文の品は以上でよろしいでしょうか」

「ええ」

「なにか必要なものがございましたらお申し付け下さいませ」

失礼致しますと頭を下げて席を離れ、「お願いします」という声へ向かった。

「失礼致します。ご注文をお伺い致します」

「ざる蕎麦とざるうどん、水羊羹と抹茶羊羹で」

「羊羹は食前と食後、どちらにお持ち致しましょうか」

「水羊羹は食後で。抹茶羊羹はうどんと一緒に」

「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」

失礼致しますと頭を下げて席を離れ、座敷を下りる。

義雄の差し出すお盆を受け取り、注文の内容を簡潔に伝える。