ロッカーの扉を閉めると、薫子は腰に両手を当てて吐息をつき、小さく苦笑した。「まだ開店してないのに、なんか達成感みたいなのがありますね」

「新しいことってそうだよね」

「はい……。働いた経験などまるでないので」

「無理はしないでね。燃え尽きると、あとが辛いようだから」

「大丈夫です。わたし、学生してた頃は体力だけはあったので」

体の問題ではないという言葉を飲み込み、「そうか」と笑い返した。

「よし、そろそろだな」義雄が言った。少ししてから流れていた音楽が止む。

「じゃあ、今日もこうのはながあたたかな場所でありますように」

そうだと呟き、義雄は作務衣の衣曩からメモ帳と筆記用具を取り出した。薫子へそれを差し出す。「もし必要な場面があれば使って。うち伝票ないからさ」

「ああ、ありがとうございます。助かります」

薫子は義雄の差し出すそれらを受け取り、衣曩へ収めた。

「なにか不安なこととかあるか? ちゃんと教えてあげる時間作らなかったからな」

「大丈夫です」

「なにかあったら言ってね」僕が言った。「ありがとうございます」と薫子は笑顔を見せる。

「じゃあ、今日もこうのはながあたたかな場所てありますように」

よろしくお願いしますと言う義雄へ同じように続く。