作務衣に着替えて部屋を出ると、ほぼ同時に一昨日まで物置のようだった部屋から薫子が出てきた。彼女の着ている作務衣も、縮緬でできた藤色の上衣と下衣、茶色の前掛けという僕と全く同じものだ。雅美と義雄もそれを着用して表に出ている。

「恭太君、素敵ですね」薫子は言いながらこちらへ寄ってきた。

「わたしにはちょっとお洒落すぎる気もしますが、気分は上がりますね、こういう服って。普段は決して着られませんから。それに足元は下駄でしょう? 舟形でしたっけ、わたしのは。恭太君のは確か、大下方」

「そう。気に入ってもらえたならよかった」まあ僕はなにも考えてないけどと苦笑する。「薫子、似合ってるよ」

「なんか照れますね」へへへと頭の後ろへ手をやり、薫子は「あっ」と声を発した。「かわいくないですか?」と後ろを向く。ハーフアップと言うのであろう形にされた髪の毛を、藤色地に小花柄が為された大きなリボン型の髪飾りがまとめていた。

「いいね、かわいい」

「雅美さんが、薫ちゃんこういうの似合いそうだからと言って貸して下さったんです」

「嫌じゃなければあげるよ。殆ど使ってないし」部屋から出てきた雅美が言った。

さあ行くよと下へ向かう彼女の髪の毛は、かつてトシさんが使っていた簪がまとめていた。

「なに気合い入れてんの」

思わず口に出すと、雅美はやたら首を動かして振り向き、「あら嫌だ、いつもこうですけど」と言ってやたら首を動かして前を向き直った。

僕は階段を下りながら、間違いなく薫子の前で格好をつけたかったのだろうと考えた。