朝食後、薫子は雅美に呼ばれて彼女の部屋へ入って行った。

「いやあ、薫子ちゃんは本当に別嬪さんだねえ」

僕とトシさんとの三人になった居間で、茂さんは穏やかに言った。

「あんなお方が何日も公園なんかにいたとは。よくも無事だったよ」よかったよかったと頷き、茂さんは湯呑みの茶を啜った。

「確かに、よく何事もなく何日もいられましたよね……」

言われてみれば、と思った。容姿は関係なく、人が連日公園にいれば誰かしら不審に思うだろう。加えて薫子はまだ十七歳だ。なにを理由に家を離れたのかは知らないが、彼女が実家を離れた事実を知っている身近な人間がなんらかの行動を起こすのが自然ではないだろうか。

「恭ちゃん」トシさんの穏やかな声で我に帰った。「はい」と返事する。

「今日は、そろそろ準備を始めた方がよくないかな?」

「ああ……」後ろの壁にある時計を確認すると、確かにそうすべき時間だった。こうのはなに決まりという決まりはないに等しいが、ほんの少しのそれを伝えるにはそろそろ支度を始めるべきだった。

「本当ですね」と苦笑して立ち上がる。

「じゃあ、僕行ってきます。茂さん、外に出るなら気をつけてくださいね。ちゃんとスポーツドリンクのようなもの持ってください」

「わかってるわかってる」大丈夫だよと愛らしい笑みを浮かべる彼へ、「ちゃんとまめに休憩とってくださいね」と返す。

「大丈夫よ、昼までは私もいるから」穏やかに言うトシさんに「はい」と返し、「二人とも気をつけてくださいね」と残して居間を出る。