「じゃあまたあとで」という義雄の声を合図に、僕達はそれぞれ動き始めた。

薫子とベッドを持って自室に入ってすぐ、「掃除機どこだっけ」と義雄の声がした。「義雄が髪の毛切って脱衣場で使ったでしょう」と雅美の声が答える。「そうか」と義雄の苦笑が続いた。

僕は居間から鋏を持ってきた。大きな箱を丁寧に開ける。

「なんか、本当にすみません。わたしなんかのために……」薫子は静かに言った。

「いいんだよ。僕達が勝手にやってるんだ」

「本当、皆さんが優しすぎて泣けてきます」

「泣きたければ泣けばいい。涙は心の栄養とか言わない?」

わかんないです、と薫子は苦笑した。そうかと同じように返す。

「ちょっと待って、ドライバーも忘れた」

「大丈夫ですか?」と笑う薫子へ「こういうのを世間では要領が悪いって言うんだよ」と苦笑を返し、「こうはならないでね」と続けながら僕は部屋を出た。