洗顔を済ませて眼帯の紐を結んでいる途中、鏡に雅美が入ってきた。「おはよう」と言う彼女へ「おはよう」と返し、二つの輪を左右に引く。

「薫ちゃん起きてる?」

「ああ、起きてるよ」僕は言いながら振り返った。

「せっかく今着けたのにあれだけど、これ」

差し出された雅美の手には新しい眼帯があった。素材も本来の色も同じものだが、先程まで鏡越しに見ていたものはだいぶ変色が進んでいた。礼を言ってそれを受け取ると、雅美は難しいものじゃないからと笑顔を見せた。

「さてと、薫ちゃんをかわいいかわいいしちゃおっと」

ふふふと笑いながら僕の部屋の戸へ近づく雅美へ「変なことしないでよ」と投げる。

「大丈夫よ、おばあちゃんと三人でキャッキャウフフするだけだもの」

薫ちゃーん、と呼ぶ雅美へ、薫子は室内から「はい」と答えた。「ちょっといい?」という雅美の声に、ゆっくりと戸が開いた。

「おはようございます」

「おはよう。ちょっといいかな、作務衣の試着をお願いしたいんだけど」

「はい。もうできたんですか?」

「ええ。わたしのおばあちゃんすごいのよ」

さあさあと促され、薫子はトシさんの部屋へ入って行った。

僕は自室に入り、後頭部の紐を解いた。