目を覚ますと、「体痛くないですか?」と柔らかな声が聞こえた。薫子のものだった。

僕は咄嗟に右目に触れた。触り慣れた滑らかな感触が指先を刺激した。よかったと腹の中にこぼす。上体を起こして声の聞こえた方を向くと、「おはようございます」と薫子は笑みを浮かべた。「おはよう」と返す。

「何時?」

「七時半です。早いですね」

「薫子、何時に起きたの?」

「ついさっきです」

「そうか」

「体、痛くないですか?」

「大丈夫。薫子こそ、気にしなくていいから」

「そんなに優しいことばかり言うと、本気で甘えちゃいますよ?」

「存分に甘えてくれればいい」

冗談ですよと笑う薫子へ、そう言わずにさと返す。

「ちょっと顔洗ってくる。薫子はここで待ってて」

わかりましたと大きく頷く薫子へ小さく頷き返し、僕は部屋を出た。