「恭太君が暗い場所が好きではないのって、なにか理由があるんですか?」

「ううん、ないよ。ただなんとなく……」なんだろうと続け、僕は言葉を探した。「不安になるっていうか」

いやいや、と薫子は苦笑した。「点けましょうよ、電気。わたしは本当、明るくても暗くても全然構わないんで」

「大丈夫だよ。暗い場所の方が睡眠の質がいいことはわかっちゃいるんだ」

「まあ……恭太君がいいならいいんですけど。ていうか、ねえ、布団も敷いて下さいよ。わたしのことは本当に気にしないで下さい」

「たまに硬い場所で寝たくなるんだ」

思いついた言葉を返すと、薫子は不満げに僕を見た。わかったわかったと苦笑を返し、僕は畳んだ布団の上に置いた枕を取った。

「じゃあ枕は使おうかな」

「敷布団もタオルケットも使って下さいよ」

「別に一晩畳で寝たくらいで死ぬわけじゃない」

「それはわたしも知ってます。公園で寝ても死にませんから。そうじゃなくて、恭太君がわざわざなにも敷かずに寝る必要はないですよね」

「はいはい、おやすみ」

また明日と言いながら枕を置き、僕は薫子から顔を背けて目を閉じた。ちょっと、お兄さん、などと投げ掛けられる声の中、不意に「美男さん」と割り込んできて顔が熱くなったが、そのことも薫子の声も知らないふりして目を閉じ続けた。