僕は畳に寝転んだ。「夏だな、この感じ」

「……布団、敷かないんですか?」

「たまにはこういうのも悪くない」

安心して、と僕は笑った。「こう見えて僕、数日に一度は掃除してるんだ」

「綺麗好きなんですか?」

「いや、本当は違う。だけど、十五歳くらいだったのかな。それくらいの頃に、掃除くらいはできておきたいと思って始めたの」

「へえ。完璧主義っぽいところあるんですかね」

「さあ、どうだろう。完璧とはかけ離れた人生だけどね」

「それはわたしですよ」

「そんなことないと思うよ」

「そうですかね」

「うん」

少しの沈黙のあと、薫子は「訊かないんですか?」と静かに発した。

「なにを?」

「わたしの……素性?」

「ああ、別に言いたくないならわざわざ聞かないよ」

「怖くないんですか?」

「なんで怖いの」

「わたしが何者かわかってないんですよね?」

「まあ、詳しくは」

怖くないんですか、と薫子は改めて問うた。

「わたし、もしかしたらものすんごい嫌な奴かもしれませんよ」

「別に、それならそれで」

「嫌な奴どころか、危険な奴かもしれませんよ。度合いによっては殺されかねませんよ?」

「薫子、そういう人に見えないし」

「……なんでそうもいい人なんですか」

「別にいい人ではないって。どう、話して楽になることがあるなら話してくれていいよ」

「なんでもないです」と微かに震えた声を返し、薫子は僕の隣に寝転んだ。「恭太君長い」と笑う。

「身長どれくらいあるんですか?」

「十七歳の誕生日に百七十七で義雄を越えた」

「それは長いはずですね。わたしより二十センチ以上あるんですもんね」

「薫子はどれくらいあるの?」

「百五十六です」薫子は拗ねたように言った。

「小さいと思ったでしょう」

「そんなことないよ」僕は苦笑した。

「雅美さん、高いですよね」

「あの人、それだけが自慢らしいからね。でも高いと言っても、百六十三くらいしかないよ」

「充分じゃないですか」と言う薫子へ、「自慢できるほどじゃないでしょう」と笑い返す。