ボックスティッシュを差し出すと、薫子は素直に数枚引き出した。鼻をかみ、華奢な指の中で丸める。ごみ箱を出せば、小さな音と共にティッシュが放られた。薫子は僕の前で膝を抱えた。

「薫子はさ、好きな食べ物ってある?」僕は言った。

「なんでも好きです。強いて挙げるなら、ご飯とおかずといった食事が好きです」

「そうか。欲しいものは?」

「ありません。欲を言えば……」少しの沈黙のあと、薫子は「いえ」と首を振った。

「欲しいものはありません」

「そうか。じゃあ、なにか出てきたら言って。ほら、僕これでも金はあるから」

薫子はふふっと笑った。「恭太君以外の人だったら四発殴ってます」

おっと、と僕は苦笑した。「恭太でよかった」

「そういえば、恭太君って茶色が好きなんですか?」

「ああ……言われてみるとそうかもしれない。なんで?」

「いえ、身につけているものも部屋にあるものも、茶色いものが多いので。甚平、すごく似合ってます」

「ありがとう」