昼食は冷やし茶漬け、夕飯はうどんだった。薫子がしばらくの間まともに食べていないことを知った義雄が決めた。冷やし茶漬けを食べたとき、薫子はおいしいですと涙を流した。

自室へ入るとき、閉めた戸の当たる部分に頭をぶつけた。声を漏らしてぶつけた箇所を押さえると、薫子が「大丈夫ですか?」と心配げに眉を寄せた。

「ぼうっとしてるとだめだね」僕は苦笑した。「ここ数日なかったんだけど」

「その目は……怪我ですか?」薫子は自身の右目を指で示して言った。

「まあ、そんなところかな」

「そうなんですか」

早く治るといいですねと言う薫子へありがとうと返す。

「ところで、どうしようかね」寝具のことを忘れていた、とは腹の中で続けた。

「なにがですか?」

僕は苦笑した。結局口に出すのかと思った。「寝具だよ」

「ああ、それなら要りませんよ」

「そういうわけにはいかないでしょう」

「そんなことありません。公園に寝具などありませんでした。快適な室温、湿度の中で眠れるだけで充分です」

「でも……」

なにか掛けるものくらいはと思い辺りを見渡していると、薫子は「掛けるものも要りませんよ」と穏やかに言った。

「公園には掛けるものもありませんでしたし。本当に、汗を掻かないというだけで充分なんです。洋服も綺麗なものですし」

「と言っても……いや、まあ……今夜はそうするしかないか」

「今夜はというか、今後も要りませんよ。だめです。人様に掛ける迷惑は最低限に――これ、わたしのポリシーです」

「そんなポリシー、ここでは要らないよ。困ったときはお互い様というのが竹倉家の掟だからね」

「なんて素敵なご家族なんですか」

どうもと笑い返し、僕は畳んだ布団の上に座り、その下であぐらのように脚を組んだ。