階段を上り切ると、雅美は「まあかわいこちゃん」と笑った。

「お疲れ、外暑かったでしょう」

「いえ、大丈夫です」

「そう……。まあ、恭太がこのかわいこちゃんをどうしたいのかはなんとなくわかるわ。とりあえずかわいこちゃん、シャワー浴びちゃえ」

「えっ、でも……」

「大丈夫大丈夫」

安心して、と薫子の背を叩く雅美へ、僕は「不安にしかならない」と返した。

「本当にいいんですか?」とこちらを振り返る薫子へ「大丈夫」と頷く。

雅美はなにか言いながら薫子を案内して戻ってきた。

「なんか、強引なことしちゃったかな」僕は脱衣場の扉を見ながら言った。

「視線の先にあるもののせいか違う意味に聞こえるわね」

僕は壁に寄りかかって腕を組んだ。廊下へ視線を落とす。

ばーかと雅美は笑う。

「その強引さも許せるほどのことをしてあげればいいんじゃないの」

「簡単に言うね」

「わたし、前から言ってたでしょう? いかなる場面でも全ての言動には責任が伴うと。当然、それを承知で彼女に声を掛けたんでしょう?」

「そうだけど。彼女は僕の救済なんか求めてなかったかもしれない」

「いいや」雅美はねっとりした口調で断言した。「本当にそうなら、彼女だって恭太についてはこなかったはずよ」

僕はふっと笑った。「そのいやに自信がある感じ、雅美らしいね」