「いいよ」と手を出すと、「ごちそうさまでした」と空いた容器が載せられた。「生き返りました」と笑う薫子へ「よかった」と返す。

店の裏、玄関の付近へくると、薫子は小さく笑った。「なんか、お店の裏側にくるって特別な人になった気分ですね」

「そう?」

「まあ恭太君にとっては日常的なことなんでしょうけど」

「そうだね。物心付いた頃にはこうだったからね」

「羨ましいです」と笑う薫子へ「薫子も今日からこうだよ」と返し、鍵穴へ挿した鍵を回し、扉を手前に引いた。

「入って」と促すと、薫子は「失礼します」と静かに玄関へ入った。

「恭太君の匂いがする」

「匂いフェチってやつ?」

「いい匂いは好きですが、恋愛対象の条件にはなりません」

そうかと笑い返すと、階段の上から「いらっしゃい」と雅美が顔を出した。「すっごい美声」と薫子が呟く。