「あのさ」僕はしばらくの沈黙を破った。「君のこと、なんて呼んだらいい?」

少女は「あっ」と声を上げた。

「わたし、うえしまかおるこって言うんです。植物の植に島国の島、草冠の薫に子供の子です。母がカオリ、父がノボルなので、カオリのリをノボルのルに変えて、その二人の子なので子供の子をつけたそうです。声とか香水の香が入る馨を使うか迷ったがなんとなく草冠の薫にしたとのことで、漢字に特別な意味はないようです」個人的には声が入った馨が好きなんですがと彼女は苦笑した。

「普通に、名前の通り薫子とでも呼んで下さい」

「薫子ね。植島薫子か……。テスト大変だね」

「そうですね、楽ではありませんでした。お兄さんは名前なんて言うんですか?」

「竹倉恭太だよ」

「ああ、そういえば。竹林の竹に小倉あんの倉、共同の共に下心の恭に太いでしたよね」

「正解」

「恭太……さん?」

「恭太でいいよ」

「恭太……」数秒して、薫子は「だめだ」と笑った。「じゃあ、恭太君で。恭太君の名前の由来ってなんなんですか?」

「うーん……なんだろうね。わかんない」

「そうなんですか……。でも、素敵なご家族のようですし、素敵な意味が込められているはずですよ」

純粋な笑みを浮かべる薫子へ、僕は「そうだね」と返した。