「僕、ちょっと行ったところにある食事処を経営する夫婦の息子なんだ。定休日と月曜日以外は店を手伝っている。もしも――もしもね、君がなんらかの事情でここにいるのなら、かつ、その事情が時間が経てば解決するようなものならば、その間なにかしてあげられたらいいなと思ったんだ」

「この辺りの食事処……」

少女は呟いたあと、はっと目を見開いた。ショルダーバッグから携帯電話を取り出し、画面の上で素早く指を滑らせる。「若いね」と僕は無意識に呟いた。

「……お兄さんもしかして、こうのはなの人ですか?」

「ああ、知ってる?」

「知ってるもなにも、すごく人気の和食屋さんじゃないですか。知らない人の方が少ないですよ、この辺りじゃ」

「恐縮です」

少女は静かにショルダーバッグへ携帯電話を戻し、「あっ」と小さく声を出した。

「……こうのはなの人って、本当ですか?」

「嘘だと――」思うか、と僕は苦笑した。「こんな茶髪の馬鹿っぽい男が和食屋で働けるものかってね」

「そこまでは思ってないですけど……」

僕は自分の髪に触れた。「かっこいいでしょう。染めてないんだよ、これ」

「脱いたんですか」

「うまいこと言うね。生まれ持った色だよ」眉も黒目も茶色いんだ、と僕は前髪を掻き揚げた。

「面白いでしょ」と笑うと、少女は「なんか失礼なこと言いました」と呟いた。気にしないでと僕は笑い返す。