玄関の外では、救急車のサイレンが暑い空気を揺らしていた。

僕は玄関の鍵を閉め、鍵を持った右手をパーカーの衣曩へ入れた。

生命体には、健康や幸か不幸かなど関係なくいつかは永い眠りが訪れる。生まれてこの方二十二年、僕は未だ他人のためになることはできていない。

この頃、自ら命を絶つ人が多い。僕はその決断を肯定はしないが、否定することもできない。僕は他人の決断をああだこうだと言えるほど経験していない。彼らを変えられる程度の言葉も持っていない。しかし、彼らの思考を変えうる程度の幸福は持っている。それを差し出すことなら容易い。どう生きようといつか死ぬのであれば、多少人のためになってから死にたい。

ふと、藤原君のことが頭に浮かんだ。彼に対しては本当になにもできていない。疲れたときにはくればいいと言ったが、きてくれた彼に対してなにもできていない。出逢ってから五年程も経つが、ありあまる幸福を差し出せるほど近づけてもいない。

彼は僕になにかを求めてこうのはなを訪れているはずだ。それに対して、なにも応えられていない。

僕は足元を眺めたまま唇を噛んだ。