どうしよう、と思ったと同時に目が開いた。体にはいつもの濃紺色のタオルケットが掛かっており、天井は見慣れた白だった。布団から手を出せば、慣れた畳の感覚が指先を刺激した。生きてる、と思った。

自分が死ぬ夢を見た。雅美は度々、僕が死んだら自身も死ぬと語っていた。だからどうしようと思った。

あーと声を出してみた。いつもの自分の声だった。携帯電話を確認する。日曜日の九時前らしい。ふうと緊張を吐き出した。

左の胸元に白の睡蓮が描かれた、睡蓮とは違った白のティーシャツにジーンズを穿き、布団を畳んだ。座卓にある卓上鏡の前に座り、慣れた作業のあとに眼帯の紐を結ぶ。十年ほどの間繰り返してきたものだが、夢のせいか非常にありがたいものに感じられた。

洗口液で口を濯いだあと、左手首にブレスレットを着けた。

「おはよう」という台所からの義雄の声へ、「おはよう」と返す。「雅美達は?」

「居間でパイナップル食べてる。茂さんが昨日収穫したやつ」

「そうか。パイナップル、実ったんだね」

「ちゃんとできてるらしいぞ。三年ちょっと掛かったな」

「そうだね」

「朝食なに食べる? 味噌汁はトマトとモッツァレラなんだけど」

「そうだな……義雄は?」

「おれは蕎麦。朝から暑くてな」

「じゃあ僕は――」

「蕎麦?」と言葉を遮った義雄へ「うどん」と返し、「頷けよ」と苦笑する彼へ「さきいかの怨み晴らしだ」と笑い返して居間へ向かう。「いかんかったか?」という義雄の言葉を聞こえないふりして「おはよう」と言いながら居間へ入った。