まも兄が提供するのは抹茶も菓子も美味で、店も賑わっていた。接客するまも兄は姿勢も言葉遣いもしっかりしており、それを体験すると義雄も安心したようだった。別れ際にまた会いにこいよとまも兄の肩を叩いていた。


薫子は翌年の春、竹倉家の敷地を囲む桜が満開になった頃にここを出た。また甘えたくなったときのためにと彼女が言い出して連絡先を交換した。以前は馨の文字で登録してくれと言っていたが、今度は本当のわたしで甘えさせてくださいと薫の文字で登録するよう言ってきた。

薫子は家を出る前、トシさんの作ったご縁ストラップを一つ買った。皆さんとのご縁に感謝して、と愛らしく笑った。

薫子が次に住むのはめぐり荘というシェアハウスだった。荷物の移動のために僕も行ったが、建物は小さくも綺麗なものだった。しばらくの間新たに人が入ってくることがなかったらしく、薫子は先住者全員に歓迎された。

最後にぎゅうさせて下さいと無邪気な笑みを浮かべる彼女を抱きしめ、よしよしと髪を撫でた。また甘えに行きますねと笑顔を残し、薫子はめぐり荘へ入って行った。

めぐり荘との縁が彼女に幸をもたらすものであるようにと願いながら、人を愛するというのはこういうことかもしれないと思った。仮にそうであれば、人の心情を理解する程大層なことはできないが、人を愛する程度のことなら僕にもできるのだなと思った。


受注している間、離れた場所から「すみません」と声が上がった。「ただいま伺います」と藤原君の声が返す。

「筍ご飯の鯖定食、汁物を春キャベツの味噌汁と、三種おにぎりを、薄焼き玉子ソーセージと味噌、枝豆昆布ですね。かしこまりました、少々お待ち下さいませ」


ほっこり処こうのはな
【完】