当時のおれは、非常に愛らしい弟のような存在ができて浮かれていた。その弟が恭太だ。当時五歳程度だっただろうか。そいつは人間であることを疑う程愛らしい容姿と性格をしていた。何度か現状を漫画の世界と見紛った。

おれは恭太に癒やされながら、夫妻が経営する和食屋、食事処こうのはなで働いた。ある程度金を貯めた後、一人前の大人になって夫妻に恩を返そうと考えていた。

しかしおれには、目の前の状況に左右されやすいという、計画を立てて行動するに当たって致命的な欠点があった。月に一度、金が入る度に恭太と遊びに行っては殆どの給料で経済に小さな刺激を与えた。

楽しい時間は経つのが早いと聞くが、事実だと思った。気が付けば己は二十歳目前、五歳程度だった恭太は小学校高学年になっていた。

こうのはなで働きながら職を探そうと考えた。実際に何件か面接を受けた。しかし全敗。当然だった。義務教育という概念がなければ中学校もまともに卒業していない、碌な経験のない十九歳だ。中学校卒業から今日までなにをしていたと毎度訊かれた。アルバイトをしていたと答えが、おれが碌でもない人間であることは相手も見抜いたようだった。