二時間もすれば日付が変わるという頃、義雄は濡れた白髪を雑に指で梳きながらくしゃみをした。

「風邪? 夏風邪は長引くって言うね」雅美が茶化すように言った。

「いや、おれは風邪は引かないよ」

「残念だけど、馬鹿は風邪を引かないんではなくて風邪を引いたことに気づかないのよ」

「大丈夫、おれはそこまで馬鹿じゃない」

「さあ、どうかしら」

「失敬な奴だなあ」

やれやれと頭を掻く義雄を笑い、僕は立ち上がった。

風呂場は玄関の正面にある階段を上り切った数メートル先にある。大きくはない長方形へ強引に、居間を含む七つの部屋と台所、トイレ、洗面台、風呂場を収めたものだから、他の民家と比べていささか不自然な構造になっている。

構造は変わっているが、どの部屋も狭くはない。僕は一般的な広さ、内装の脱衣場で服を脱ぎ、身に着けているものを全て外した。

風呂場には、換気扇は回っているがもわんとした暑さが残っていた。

扉の正面の壁に掛かっている義雄の鏡に、自分の顔から肩の辺りが映る。僕はそれを裏に返して掛け直し、湯の四十一度の設定を四十度に下げて水栓をひねった。