「そういえばトシさん」僕は味噌にぎりを飲み込んでから言った。「薫子がいなくなっても、また一人新しい人がきますよ」

「おやおや。そう言うと?」トシさんは言いながらゆっくりとこちらを向いた。

「薫子の一つ歳下の男性です。くるときはいつもトシさんのいない時間でしたが、うちの常連さんなんですよ。彼に薫子本人がやがてここを去ると伝えたそうで、それを知った彼がその後自分がここで働くと言ってきたんです」常連さんなんで僕達だけでは厳しいのを知ってるんですと僕は苦笑した。

あらそう、とトシさんは笑った。「確かに皆だけでは厳しいね」私もなにか力になれたらいいのだけどと言うトシさんへ、充分ですよと返す。

「トシさん、レジを手伝ってくれてますけど本当にすごいですよ。僕達は店内動いてるんである程度わかりますけど、カウンターから店全体の様子を見てるんですか?」

トシさんは小さく唸ったあと、「年の劫というやつね」と笑った。