ことあるごとに抱きついてくる薫子へよしよしと髪を撫で返すというのが日課のようだったのは、ほんの一週間程度だった。思い切りべたべたしたら落ち着きましたと彼女は言った。

僕のような人間がいるとわかったことでどこか安心したのだとも言っていた。彼女の心情を深くは理解できないが、安心できたのであればなによりだった。これでおじさんにもチャンス到来かなと言う義雄へはそういうことじゃねえよと返した。


僕は雅美から「焼きと塩鮭」と差し出されたお盆を受け取って座敷へ戻った。

「失礼致します。お待たせ致しました、焼きおにぎりと塩鮭おにぎりでございます」

女性客は静かに会釈した。

「ご注文の品は以上でよろしいでしょうか」

「はい」

「なにか必要なものがございましたらお申し付け下さいませ」

ごゆっくりどうぞ、失礼致しますと残して立ち上がると、「お願いします」と声が飛んできた。「ただいま伺います」と返す。