翌日、薫子のいない店から戻ると「おかえりなさい」と薫子が飛びついてきた。「ただいま」と返して彼女の髪を撫でる。これが彼女なりの甘え方なら僕はそれを受け入れるまでだった。ただ彼女へ特別な感情を抱いてしまわぬよう注意せねばならないが。

まも兄が口癖のようにかわいいと言ってくれたが、このような感覚だったのだろうかと考える。ただ僕は男なんだよなとも思ったが、中学生の少年が純粋な子供のようにくっついてくる場面を想像すると、素直に愛らしく思えそうだった。

「薫、随分とお前に懐いてるな」義雄が言った。

「かわいいだろ、僕の妹」

義雄は「おやじ好きはなかなかいないか」と苦笑して自室へ入った。雅美は静かに入って行った。

「今日もお店は忙しかったですか?」薫子は僕を見上げて言った。

「いつも通りかな」

そうですかと笑顔を見せる薫子へうんと頷き、改めて彼女の髪を撫でた。心地良さげに笑みを浮かべて目を細める薫子はまるで子猫のようだ。