「でも最後の二日程は殆どなにもありませんでした」と薫子は苦笑した。「そんな中、恭太君が拾ってくれました」

よく眠くなりませんでしたねと薫子は笑う。

全ての疑問が解けた。やはり僕と同じようだったかと複雑な感情が胸中を渦巻く。

「薫子が大人に拘るのはお母さんの言葉があったんだね」

まあ、と薫子は俯いた。

「薫子はどういたいの?」

「と言いますと?」

「他人がどう見るとか、こうあるべきだとか考えなければ、どうありたい?」

薫子は唇を噛んだ。「甘え……たいです」茶碗に添えられた指が力を入れたように動いた。「べたべたくっついたりしたいです」

僕は頬が緩むのを感じた。軽く両手を広げる。薫子は顔を上げて不思議そうに僕を見た。「おいで」と言うと、彼女はかぶりを振った。

「どうして?」

薫子は深く項垂れて激しく首を振り、茶碗を置いて口元へ手をやった。震える髪や体と同じような声が聞こえる。

おいでと再度ゆっくりと言った。「僕は好きだよ、甘えられるのもくっつかれるのも」

薫子はゆっくりとこちらへ寄ってきた。僕の胸に顔をうずめ、腕を自分の体の前に収める。僕は彼女を抱きしめて柔らかな髪を撫でた。

「大丈夫、存分に甘えればいい。自然が一番だよ」

甘えてもいいですか――ひくひくと息を吸う合間に並べられた問いに、自然と笑みが浮かんだ。「どんとこい」