「言ったっすよね。おれ、夢ができたんすよ。その実現のためには、ここにいるわけにはいかないんす」

「だからって金のない今じゃなくたって……」義雄は言った。

まも兄は義雄をゆっくりと呼んだ。「思い立ったが吉日、善は急げ、すよ」

「急がば回れという言葉もある」

「おれはそうは思わないっす。それに、自分の決断による困難ならばっちこいっすよ。上等っす、潰せるもんなら潰してみろってもんっすよ」

「いいんじゃないかしら」トシさんが言った。僕を含めた皆の視線が彼女へ向いた。「まもる君は素敵な人よ。真っ直ぐで強い人。たまには静かに応援してあげるというのも、私達のすべきことじゃないかな」

トッシーさん、とまも兄は笑顔を浮かべた。

そのほんの数日後、まも兄はここを離れた。見送りの日、視界を滲ませるものはすぐに頬を伝った。

まも兄と呟くと、彼は苦笑してこちらへ寄ってきた。静かに僕を抱きしめた。

「かわいい顔すんなよ、恭太。まだいたくなっちゃうじゃないか」

「じゃあ、まだいてよ……」

「それはできないよ。これは、おれなりのまさ達への恩返しなんだ」

僕はまも兄を見上げた。彼は自慢げに笑みを浮かべた。「いつか絶対会いにくる」それまで待っててよ――優しい声がいやに耳に残った。