彼女は、今度は「あれっ」と声を発した。

「どうした?」

「お茶菓子ってお抹茶が出てくる前に食べておくんですよね」

「大丈夫、これは食後のデザートだから」

ありがとうございますと薫子は笑った。

「じゃあ、いただきます」

薫子は抹茶茶碗を手に取ると、微かに声を発した。

「お抹茶の器って、硝子のものもあるんですね」

「焼き物とか塗り物が多いらしいけど、夏はそういうのも使われるらしいよ。季節感も大切にする場らしくてね」

「へええ、詳しいですね」

「これでも、そういう場が日常の一部になった時期もあったからね」

薫子は息をついた。「なんか、恭太君とは度々格差を感じます」

「こんな奴と格差なんか感じてたら大変だよ」

薫子は苦笑し、茶碗を眺めた。「なんの葉っぱですか?」

「わからない。衝動買いみたいな感じだったから」

そうなんですかと笑い、薫子は抹茶を飲んだ。大人の味だ、と嬉しそうな笑みを浮かべる。

薫子は手を下ろしてふうと息をついた。「なんか、こうゆったりした時間を過ごすと、色々話したりしたくなりますね」

「ほう。なに話す?」

「よかったら、恭太君のこと教えて下さい」

僕は苦笑し、項垂れて目元に手をやった。「退屈で寝ちゃうよ」

「じゃあ、恭太君が教えてくれたら、わたしも自分語りします。恭太君、わたしのこと知りたいって言ってくれてたので」

「今となってはわざわざ知るのも怖いな」と笑うと、「わたしはただの馬鹿な弱者ですよ」と同じように返ってきた。

名前を呼ばれ、僕はまじで寝ても知らないぞと吸った息を吐き出した。