「あららトシさん、いらっしゃい」

「なごみ」という洒落た形の三字を掲げた店に入ると、ひやりとした薄暗い空間に小綺麗な声が響いた。和菓子の並ぶカウンターの奥に六十代くらいの女性が立っている。出入り口付近には低い長椅子が置いてあった。

「どうも、よっちゃん」とトシさんは女性へ会釈した。

「今日も元気そうね。素敵な少年も連れちゃって」

「曾孫だよ」

「へえ」

素敵な子だねと微笑む女性へ、トシさんはすごく優しいのよと穏やかに返した。僕は顔が熱くなるのを感じた。足元へ視線を逃がして唇を浅く噛む。

「それにしても、曾孫に会えるだなんてトシさんは長生きだね」女性が言った。

「私は幸せだからね。この子に出逢ってからは特にね」

「そう。まあこんな美男君じゃあ、幸せにもなるだろうね」

君、と女性に呼ばれ、僕は唇を解放して顔を上げた。

「幸せに生きるんだよ」女性は笑顔で言った。

「はい。現状維持に努めます」

女性は穏やかな笑顔で頷いた。