羊羹を持ってきて薫子の前に座ると、僕はふうと息をついた。

「恭太君、意外と天然ぽい部分あるんですね」薫子は無邪気な幼子を見るように笑った。

「それは他の天然と呼ばれる人に申し訳ない。僕はなんか、完璧と逆の磁気持ってる奴」

「近づこうとしてもどうも離れちゃう、みたいな?」

そう、と僕は苦笑した。「そんな奴が点てる抹茶だ、期待はしちゃいけないよ」

「大丈夫です、わたしお抹茶初体験なんで」

「初体験が僕の抹茶か……」

なんかごめんねと苦笑すると、なんでですかと同じように返ってきた。

「じゃあまあ、食後のデザートみたいな感覚で」

はい、と薫子は頷いた。

僕は茶碗に茶杓二杯分の抹茶を入れた。適量の水を加え、茶筅で練る。さらに水を加えて茶筅を上下に素早く動かした。

薫子はふふっと笑った。「似合わないでしょう」と僕も笑った。

「こんな不良みたいな奴が」

いやいやと薫子は苦笑する。「恭太君、自分でよく言いますけど、不良っぽいですかね?」

「ぽくない? とりあえず頭の中はなんらかの整備不良ありそうでしょ」

「それ、放っておいたら命が危ないですよ」

よく平穏な日常が送れてるよねと僕は笑い返した。

泡立った抹茶に氷を浮かべ、茶碗を差し出した。泡立てない点て方もあるようだが、僕にその技術はない。

すごい、と薫子は語尾に感嘆符を付けた。